数学研究科
微分幾何学 I
理工学研究科
微分幾何学
————–
Lie 群と等質空間入門
田崎博之
1995年度
目 次
1 積分多様体 1
1.1 分布と積分多様体 . . . . 1
1.2 Frobeniusの定理 . . . . 3
1.3 極大連結積分多様体 . . . . 8
1.4 可算開基 . . . . 10
2 Lie群とLie環 13 2.1 Lie群とLie環 . . . . 13
2.2 連結Lie群 . . . . 16
2.3 一般線形群 . . . . 17
2.4 一径数部分群 . . . . 20
2.5 指数写像 . . . . 23
2.6 準同型写像 . . . . 26
2.7 接束Lie群 . . . . 29
2.8 閉Lie部分群 . . . . 36
2.9 線形Lie群 . . . . 40
2.10 Lie部分群とLie部分環 . . . . 44
2.11 線形Lie群の連結性 . . . . 48
2.12 自己同型群 . . . . 53
3 等質空間 59 3.1 等質空間の多様体構造 . . . . 59
3.2 線形Lie群の等質空間 . . . . 63
3.3 等質空間のRiemann計量 . . . . 67
3.4 Lie群上のRiemann幾何学 . . . . 74
3.5 等質空間上のRiemann幾何学 . . . . 77
3.6 コンパクト等質空間のコホモロジー . . . . 84
i
第 1 章 積分多様体
1.1 分布と積分多様体
定義 1.1.1 Mをn次元多様体とし、kを1≤k≤nを満たす自然数とする。Mの各点xに 対して、Tx(M)のk次元部分ベクトル空間Bxを対応させる対応Bが次の(∗)を満たすと き、BをM上のk次元分布と呼ぶ。
(∗) Mの任意の点xに対して、xの開近傍UとU上のベクトル場X1,. . ., Xkが存在し各点 z ∈Uにおいて(X1)z,. . .,(Xk)zはBzの基底になる。
M上のベクトル場Xと分布Bが任意の点x∈Mに対してXx ∈Bxを満たすとき、XはB に属するという。M上の分布Bに属する任意のベクトル場X, Yに対して[X, Y]もまたB に属するとき、Bは完全積分可能であるという。NをMの部分多様体としι:N −→ Mを 包含写像とする。M上の分布Bに対して
dιx(Tx(N)) =Bx (x∈N) が成り立つとき、NをBの積分多様体と呼ぶ。
逆関数定理より次の補題を証明することができる。
補題 1.1.2 Nをn次元多様体Mのk次元部分多様体とする。このとき各x∈Nに対して、
xを含むMの局所座標近傍(U;x1,. . ., xn)でxi(x) = 0, (1≤i≤n)を満たすものが存在し V ={z∈U|xα(z) = 0 (k+ 1≤α≤n)}
はNにおけるxの開近傍になり、x1,. . ., xkのVへの制限はNの局所座標系になる。
命題 1.1.3 Mを多様体とし、BをM上の分布とする。Mの各点xに対して、xを含むB の積分多様体が存在するならばBは完全積分可能である。
証明 XとYをBに属するM上のベクトル場とする。Mの各点xに対して、[X, Y]x ∈Bx
を示せばよい。Nを x を含む B の積分多様体とする。各 z ∈ Nに対して Xz ∈ Bz = dιz(Tz(N))でありdιz : Tz(N) −→Tz(M)は単射だからただ1つXz0 ∈ Tz(N)が存在して dιz(Xz0) = Xzを満たす。dimM = n, dimN = kとすると補題1.1.2よりxを含むMの局 所座標近傍(U;x1,. . ., xn)が存在し
V ={z∈U|xα(z) = 0 (k+ 1≤α≤n)} 1
はNにおけるxの開近傍になりx1,. . ., xkの Vへの制限y1,. . ., ykはNの局所座標系にな る。VもBの積分多様体になる。XのUにおける局所表示を
Xz =
Xn i=1
ai(z) ∂
∂xi
¯¯
¯¯
¯z (z ∈U) とすると各aiはU上のC∞級関数である。z ∈Vに対して
dιz
à ∂
∂yi
¯¯
¯¯
¯z
!
= ∂
∂xi
¯¯
¯¯
¯z
だからaα(z) = 0 (k+ 1 ≤α≤n)で Xz0 =
Xk
i=1
ai◦ι(z) ∂
∂yi
¯¯
¯¯
¯z (z ∈V) が成り立つ。よって対応z 7−→Xz0はV上のベクトル場になり
dιz(Xz0) =Xz (z ∈V) を満たす。同様にY0もV上のベクトル場になり
dιz(Yz0) = Yz (z ∈V) を満たす。したがって微分写像とLieブラケット積の関係から
[X, Y]z =dιz([X0, Y0]z)∈dιz(Tz(V)) =Bz (z ∈V) となる。x∈Vだから[X, Y]x ∈Bxが成り立つ。
補題 1.1.4 F : M −→ Nを連結な多様体Mから多様体NへのC∞級写像とする。任意の x∈Mに対してdFx = 0が成り立つならば、Fは定値写像である。
証明 p∈F(M)をとる。このときM =F−1(p)となることを示そう。まずF−1(p)は1 点の逆像だから閉集合である。次にF−1(p)が開集合になることを示す。x ∈F−1(p)をと る。x∈U, F(U)⊂VとなるMとNの局所座標系(U;x1,. . ., xm)と(V;y1,. . ., yn)をとる ことができる。さらにUは連結になるようにとっておく。各z ∈ Uに対してdFz = 0だか ら、各i, jについて
∂yj◦F
∂xi (z) = 0
となって、Fは Uにおいて一定値をとる。よって F(x) = p だから任意の z ∈ Uに対し てF(z) = pとなり U ⊂ F−1(p)。以上でF−1(p) は開かつ閉集合になりMは連結だから M =F−1(p)が成り立つ。したがってFは定値写像である。
1.2 Frobeniusの定理 3
1.2 Frobenius の定理
定理 1.2.1 (Frobenius) Mをn次元多様体としBをM上の完全積分可能なk次元分布と する。このとき、Mの各点xに対してxを含む局所座標近傍(U;x1,. . ., xn)が存在し、U は各座標軸の開区間の積になり
{z ∈U|xi(z) = ci (k+ 1≤i≤n)} (各ciは定数)
はBの積分多様体になる。さらにBの連結な積分多様体NがN ⊂Uを満たせば上の形の 積分多様体のうちの1つに含まれる。
証明 まず上のような局所座標近傍の存在を分布の次元kに関する数学的帰納法で証明 しよう。k = 1の場合xの開近傍VとV上のベクトル場Xが存在し各点z ∈VにおいてXz は Bzの基底になる。特にXz 6= 0である。xを含む Mの局所座標近傍(V1;y1,. . ., yn)を V1 ⊂Vとなるようにとる。V1におけるXの局所表示を
Xz =
Xn
i=1
ai(z) ∂
∂yi
¯¯
¯¯
¯z (z ∈V1) とする。y1,. . ., ynを線形変換によってとりかえてXx = ∂y∂
1|xとなるようにできる。常微分 方程式
d(yi◦c(t))
dt =ai(c(t)) (1≤i≤n)
の係数 aiは C∞級関数だから、あるε > 0 と Rn−1における 0 の開近傍 Wが存在し各 (b2,. . ., bn) ∈ Wに対して初期条件 (y1(c(0)),. . ., yn(c(0))) = (0, b2,. . ., bn) を満たす上 の常微分方程式の解c(t)が−ε < t < εにおいて存在する。
dc(t) dt =
Xn
i=1
d(yi◦c(t)) dt
∂
∂yi
¯¯
¯¯
¯c(t) =
Xn
i=1
ai(c(t)) ∂
∂yi
¯¯
¯¯
¯c(t)=Xc(t)
となっている。この解をc(t) = c(t;b2,. . ., bn)と書く。初期条件に対する常微分方程式の解 の可微分性より
τ : (−ε, ε)×W −→V1 ; (x1, x2,. . ., xn)7−→c(x1;x2,. . ., xn) はC∞級写像である。τの定義より
dτ0
à ∂
∂x1
¯¯
¯¯
¯0
!
= dc
dt(0) = Xx = ∂
∂y1
¯¯
¯¯
¯x
dτ0
à ∂
∂xi
¯¯
¯¯
¯0
!
= ∂
∂yi
¯¯
¯¯
¯x (2≤i≤n)
となるので逆関数定理よりxの開近傍U ⊂V1が存在しx1,. . ., xnはUにおける局所座標系 になる。さらに局所座標系によってUが各座標軸の開区間の積になるように、Uを取り直 すができる。このとき
{z ∈U|xi(z) =ci (2≤i≤n)} (各ciは定数)
は適当な開区間Iと微分同型なMの1次元部分多様体である。これらの微分同型な2つの 多様体を同一視しておく。ι:I −→Mを包含写像とすると
ι(t) = c(t;c2,. . ., cn) (t ∈I) だから
dιt
à d dt
¯¯
¯¯
¯t
!
= dc(t)
dt =Xc(t) ∈Bc(t). したがって
dιz(Tz(I)) = Bz (z ∈I) となってIはBの積分多様体である。さらに
∂
∂x1
¯¯
¯¯
¯z =Xz (z ∈U) が成り立っていることに注意しておく。
k−1次元分布に対して定理で述べた局所座標近傍が存在すると仮定してk次元分布の場 合を証明しよう。xの開近傍VとV上のベクトル場X1,. . ., Xkが存在し各z ∈ Vにおいて (X1)z,. . .,(Xk)zは Bzの基底になる。特に(X1)z 6= 0である。1次元の場合ですでに示し たように、xを含む局所座標近傍(V1;y1,. . ., yn)が存在しV1 ⊂Vで局所座標系によってV1 は各座標軸の開区間の積になり
∂
∂y1
¯¯
¯¯
¯z = (X1)z (z ∈V1) を満たす。X1,. . ., XkをV1上のベクトル場とみなし
Y1 = X1
Yi = Xi−Xi(y1)X1 (2≤i≤k)
によってV1上のベクトル場Y1,. . ., Ykを定める。ここで、Xi(y1)は関数y1に微分作用素と みなしたXiを作用して得られる関数である。
[Y1. . .Yk] = [X1. . .Xk]
1 −X2(y1) . . . −Xk(y1) 1
. ..
1
だから各z ∈V1において(Y1)z,. . .,(Yk)zはBzの基底になる。Yi (2≤i≤k)のV1における 局所表示を
(Yi)z =
Xn j=1
aji(z) ∂
∂yj
¯¯
¯¯
¯z (z ∈V1)
1.2 Frobeniusの定理 5 とすると
a1i =Yi(y1) = Xi(y1)−Xi(y1)X1(y1) = 0.
したがってYi (2≤i≤k)のV1における局所表示は (Yi)z =
Xn
j=2
aji(z) ∂
∂yj
¯¯
¯¯
¯z (z ∈V1) となっている。そこで
S ={z ∈V1|y1(z) =y1(x)}
とおくと Sはn−1次元部分多様体になりy2,. . ., ynのSへの制限y02,. . ., y0nはSの局所座 標系になる。2≤i≤kに対して
(Yi0)z =
Xn j=2
aji(z) ∂
∂y0j
¯¯
¯¯
¯z
(z∈S) はS上のベクトル場になり、包含写像ι:S −→V1に対して
dιz((Yi0)z) = (Yi)z (z ∈S)
が成り立つ。また各z ∈Sに対して(Y20)z,. . .,(Yk0)zは線形独立になる。よって B0z =R(Y20)z+ . . . +R(Yk0)z (z ∈S)
とおくとB0はS上のk−1次元分布である。
B0が完全積分可能であることを以下で示そう。Bは完全積分可能だから各z ∈V1に対し て[Yi, Yj]z ∈Bzとなる。したがってV1上のC∞級関数cpijが存在して
[Yi, Yj] =
Xk p=1
cpijYp
とできる。2≤i, j ≤kのときYi(y1) =Yj(y1) = 0より 0 = [Yi, Yj](y1) =
Xk p=1
cpijYp(y1) =c1ij だから
[Yi, Yj] =
Xk p=2
cpijYp
となる。2≤i, j ≤kのとき、z ∈Sに対して dιz([Yi0, Yj0]z) = [Yi, Yj]z =
Xk p=2
cpij(z)(Yp)z =dιz
Xk p=2
cpij ◦ι(z)(Yp0)z
.
したがって
[Yi0, Yj0]z =
Xk p=2
cpij ◦ι(z)(Yp0)z ∈B0z. S上のB0に属する任意のベクトル場Z1, Z2をとる。定義より
Z1 =
Xk p=2
dp1Yp0, Z2 =
Xk q=2
dq2Yq0 となるV1上のC∞級関数dp1, dq2が存在する。f ∈C∞(S)に対して
[Z1, Z2](f)
= Z1(Z2(f))−Z2(Z1(f))
=
Xk p=2
dp1Yp0(
Xk q=2
dq2Yq0(f))−
Xk q=2
dq2Yq0(
Xk p=2
dp1Yp0(f))
=
Xk p,q=2
{dp1Yp0(dq2)Yq0−dq2Yq0(dp1)Yp0+dp1dq2[Yp0, Yq0]}(f) したがって
[Z1, Z2] =
Xk p,q=2
{dp1Yp0(dq2)Yq0−dq2Yq0(dp1)Yp0+dp1dq2[Yp0, Yq0]}
となり[Z1, Z2]もB0に属する。以上でB0が完全積分可能であることがわかった。
B0は完全積分可能なk−1次元分布だから帰納法の仮定からxを含むSの局所座標近傍 (W;w2,. . ., wn)が存在し局所座標系によってWは各座標軸の開区間の積になり
{z ∈W|wi(z) = ci (k+ 1≤i≤n)} (各ciは定数) はB0の積分多様体になる。z ∈V1に対して
y1(z0) =y1(x), y2(z0) = y2(z), . . ., yn(z0) = yn(z) を満たすz0 ∈Sがただ1つ存在する。この対応をπと書く。
π :V1 −→S;z 7−→z0 はC∞級写像になり
U = {z ∈V1|π(z)∈W}, x1 = y1
xi = wi◦π (2≤i≤n)
とおくと(U;x1,. . .xn)はMのxを含む局所座標近傍になり局所座標系によってUは各座 標軸の開区間の積になる。
1.2 Frobeniusの定理 7 以下ではYiをU上のベクトル場とみなし
Yi(xα) = 0 (1≤i≤k, k+ 1≤α ≤n) となることを証明しよう。xjの定義から
∂xj
∂y1
(z) = δj1 (z ∈U) が成り立つ。したがって
(Y1)z = (X1)z = ∂
∂y1
¯¯
¯¯
¯z = ∂
∂x1
¯¯
¯¯
¯z (z ∈U) だからY1(xα) = 0はわかる。2≤i≤kとする。
∂
∂x1(Yi(xα)) = Y1(Yi(xα)) = [Y1, Yi](xα).
Bは完全積分可能だからU上のC∞級関数epiが存在して [Y1, Yi] =
Xk p=1
epiYp
が成立する。したがって
∂
∂x1
(Yi(xα)) =
Xk p=1
epiYp(xα) =
Xk p=2
epiYp(xα)
これをI = {z ∈ U|x2(z) = c2,. . ., xn(z) = cn} (各ciは定数)で考えるとYi(xα) (2 ≤ i ≤ k, k + 1≤ α ≤ n)はx1の関数になるので上の等式はこれらに関する線形常微分方程式に なっている。IはW =S∩Uと1点で交わりz ∈Wにおいて
(Yi(xα))(z) = (Yi0)z(xα) = dιz((Yi0)z)(xα) = (Yi0)z(wα).
他方
{z ∈W|wk+1(z) =ck+1,. . ., wn(z) =cn}
はB0の積分多様体だから(Yi0)z(wα) = 0となり(Yi(xα))(z) = 0。上の線形常微分方程式は 恒等的に0になる解を持つので解の一意性より
(Yi(xα))(z) = 0 (z ∈I, 2≤i≤k, k+ 1 ≤α≤n) が成り立つ。Iを定める定数c2,. . ., cnを動かすことによって
Yi(xα) = 0 (2≤i≤k, k+ 1≤α≤n)
がU上で成立する。
U上で
Yi(xα) = 0 (1≤i≤k, k+ 1≤α ≤n) が成り立つのでYiのUにおける局所表示は
(Yi)z =
Xk j=1
bji(z) ∂
∂xj
¯¯
¯¯
¯z (z ∈U) となり
Bz =R ∂
∂x1
¯¯
¯¯
¯z+· · ·+R ∂
∂xk
¯¯
¯¯
¯z (z ∈U) と表せる。したがって
{z ∈U|xα(z) =cα (k+ 1 ≤α ≤n)} (各cαは定数) はBの積分多様体である。
最後にBの連結な積分多様体NがN ⊂Uを満たせば上の形の積分多様体のうちの1つ に含まれることを証明しよう。ι:N −→Uを包含写像とする。z ∈N, k+ 1 ≤α ≤nに対 して
dιz(Tz(N)) =Bz =R ∂
∂x1
¯¯
¯¯
¯z+· · ·+R ∂
∂xk
¯¯
¯¯
¯z
(dxα)z
à ∂
∂xi
¯¯
¯¯
¯z
!
= 0 (1≤i≤k) だから
0 = (dxα)z◦dιz =d(xα◦ι)z. したがって補題1.1.4よりxα◦ιは一定値cαをとり
N ⊂ {z ∈U|xα(z) = cα (k+ 1≤α≤n)} が成り立つ。
1.3 極大連結積分多様体
定義 1.3.1 Mを多様体とし実数の閉区間 Iから Mへの写像 c : I −→ Mが Mの曲線¯c : J −→MのIへの制限になっているときcをMの曲線分と呼ぶ。写像γ : [a, b]−→Mに対 してa= t0 < t1 <. . .< tk =bが存在し各γ|[ti−1,ti]がMの曲線分になるとき、γをMの区 分的曲線分と呼ぶ。
補題 1.3.2 連結多様体の任意の2点は区分的曲線分で結べる。